2019/12/10
Bright Cluster Manager を導入いただきました。
早稲田大学 山路哲史 准教授と研究室の皆様にお話を伺いました。
山路研究室様では原子炉設計と安全解析をメインに研究をされています。
大きなテーマは4つあり、炉心設計の研究から溶解炉心挙動メカニズムの解明まで幅広く研究をされています。
1:商用原子炉の設計と同様な手法による第四世代原子炉の炉心設計研究
2:原発の安全審査に用いられるものと同様な計算コードを用いた事故耐性燃料の設計と挙動解析
3:大規模システム解析による福島事故のシミュレーション(1号機~3号機)
4:新しい数値解析手法(粒子法)による溶融炉心挙動メカニズムの解明
山路研究室様には脈々と受け継がられてきたノウハウやシミュレーションのための計算資産が多く、研究室に配属されるとまずはこれらを『使える』ようになってもらうとのことです。定期的に導入していく大規模計算用のクラスタでは、 OS やアプリケーション、 スケジューラのバージョン管理などが複雑になっていきます。これらの管理で時間を割かれてしまい、大切な研究の時間が圧迫されることが少なからずあります。
今回、HPCテックではそんな手間の掛かるクラスタ管理をすべて簡単化する Bright Cluster Manager と 264コア PCクラスタシステムを導入させていただきました。
東京大学の越塚誠一先生らが開発した粒子法の一種 MPS法[1]を独自に改良し研究に使っています。MPS法は流れる液体の表面(自由表面)を追跡するのにとても便利な手法です。従来は熟練した解析者が対象となる空間を計算メッシュに分割し、「液体がどこに流れるのか」を予想しながら解析する必要がありました。一方、MPS法は空間ではなく流体そのものを計算点(粒子)に置き換えて解析するので、液体がどこに流れるのかは解析者が頭で考えなくても粒子の運動(解析結果)が教えてくれます。
私たちの研究室ではこの MPS法の特徴を生かして、原子炉の炉心がメルトダウンしたときに「核燃料がどこに溶け落ちて冷え固まるのか」を予測するための研究に取り組んでいます。元々 MPS法は複雑な原子炉内のどこを溶融炉心が溶け落ちていくのかを追跡するのに適した手法ですが、私たちはさらに MPS法を発展させ「溶ける」と「冷え固まる」を正確に予測する手法の開発に取り組んでいます。このような手法を活用すれば、炉心メルトダウン時に溶け落ちた溶融炉心を原子炉内に閉じ込めるための対策の有効性の検証や、福島の燃料デブリがどこに、どれだけ、どのような状態で冷え固まっているのかを正確に予測できるようになると考えて日々研究に取り組んでいます(図1)。
図1:原子炉の炉心がメルトダウン時の溶融炉心挙動
[1] Koshizuka S, Tamako H, Oka Y (1995) A particle method for incompressible viscous flow
with fluid fragmentation. Comput Fluid Dynamics J 4:29-46
Q:最新の研究について教えてください。
A:例えば床に流れ落ちた溶融炉心が広がる挙動(spreading)を対象にいくつかの
異なる「クラストモデル」を開発中です。従来は溶融物の高さ方向には平均化し
て、別途、高さ関数(h(x,t))等を用いて溶融物の広がりを予測していました。
しかし、実際には溶融物の表面に冷え固まった「クラスト」ができ、そのクラス
トが流れをせき止めます(火山のマグマが冷え固まる様子に似ています)(図2)。
図2:溶融炉心広がり挙動解析モデルの比較
このクラストは条件によっては再び溶けたり機械的に破断したりして、一旦せき
止められていた溶融物が再び流れ出すこともあります。私たちの研究室ではその
ような複雑な挙動を正確に予測するための手法を開発中です(図3)。
図3:クラストの機械的破断による再流動現象の解析例
Q:計算機をどのように使用していますか。
A:事故を起こした福島第一原子力発電所2・3号機の原子炉格納容器内にどのように
燃料デブリが冷え固まっているのかを予測する研究に取り組んでいます。これまで
に 1/100スケールの模擬実験の解析に取り組み、実験結果を高い精度で予測するこ
とに成功しました(図4)。しかし、研究室にあった従来のワークステーションで
はこれ以上の大規模シミュレーションが困難でした。
そこで、より実機に近い条件のシミュレーションを行うために、今回は HPCテック
さんにお世話になり、264コアの並列計算機システムを導入させて頂きました。
効率的な並列計算を行うために合計 6台のワークステーションに計算負荷を効率的
に分散する必要がありますが、Bright Cluster Managerのおかげで複雑な設定が
不要で簡単に複雑な並列計算を実施できるようになりました。
図4:BWR4 / Mark-I 格納容器床面を模擬した 1/100スケール実験(左)の解析例(右)
Q:クラスタ管理について。
A:6台のワークステーションからなる Cluster ということで今まで用いていた計算機
に比べて管理が複雑になるかと思っていましたが、管理ソフトとして Bright
Cluster Managerを導入したことにより、特に大きな困難もなくこれまでと同じよ
うに管理が行えています。まだまだ使いこなせているとは言えませんが HPCテック
さんのサポートもあり、管理に時間をかけることなく運用ができています。
Bright Cluster Manager 操作風景
Q:導入後の感想を教えてください。
A:これまでの環境では困難だった大規模な計算や高解像度の計算が可能になり解析の
対象が広がりました。加えて Bright Cluster Manager を導入したことにより、
従来用いていた計算機とほぼ同様の操作で効率的な並列計算が可能なので非常に
助かっています。複数の計算を流した場合でも自動的にジョブ負荷を最適分配して
くれます。
運用し始めたばかりで本格的な活用はこれからですが、今後研究を進める上で大き
な役割を果たしてくれると考えています。
山路先生、ご多忙のところインタビューをさせていただき誠にありがとうございました。
ハードウェアのサポートはもちろんのこと、安定した計算環境になるよう全力でサポート
させていただきます。 本日は、ありがとうございました。
早稲田大学 山路研究室 ホームページ
http://www.f.waseda.jp/akifumi.yamaji/