2016/05/09
Deep Learning 専用ワークステーションを導入頂きました。
名古屋大学大学院工学研究科 小山敏幸先生にお話しを伺いました。
当研究室では、フェーズフィールド法(Phase-Field Method、以下PF法)を軸足に、各種材料の組織・特性解析を通じて、材料組織形成の本質理解および先進材料の改良・最適化を実現する普遍的手法の確立を目指した研究・教育を進めています。
PF 法は、連続体モデルに基づく材料組織形成過程の現象論的なシミュレーション法で、その適用範囲は、現在、デンドライト成長(凝固過程)、拡散相分解(核形成、スピノーダル分解、オストワルド成長等)、規則-不規則変態、各種ドメイン成長(誘電体、磁性体)、結晶変態、マルテンサイト変態、形状記憶、結晶粒成長・再結晶、転位ダイナミクス、破壊(クラックの進展)等々、ほぼ材料学全般に広がっています。このように広範な現象を網羅しているため、複数の組織変化が同時進行している現象も扱うことができ、また外場(応力場、磁場、電場等)作用下における組織形成についても、比較的容易にモデル化できる特徴があります。近年では、イメージベースの材料特性解析と PF 法を融合した次世代の材料設計法も注目を集めています。従来、イメージベースの材料特性解析においては、材料の内部組織形態を表すイメージデータには、実験的に測定されたイメージもしくは実際の組織形態を理想化したイメージ等が使用されていましたが、PF 法の登場によって、この材料内部組織形態のイメージデータを、PF 法の計算結果に置き換える道が拓け、現在、PF 法に基づく組織形成過程に関するプロセス解析とイメージベース特性解析を連携させる新しい研究を種々の分野にて展開しております。同時に、大量の実験データと最新の材料設計計算工学の手法を縦横に結びつけることにより、材料開発の圧倒的スピードアップ実現(試行錯誤の圧倒的効率化)を模索する動きが近年世界的に活発化しており、当グループにおいても、データサイエンスにて培われた知見を材料科学・工学に展開する試みを進めています。
▶原子力燃料棒の界面反応相の安定性
1次元計算により、原子力燃料棒の UO2 (Fluorite)/β-Zr (Bcc)界面における反応相の安定性を解析した結果です。温度は 1873K とし、反応相として液相(L)とα-Zr (Hcp)相を想定しています。解析には平衡状態図の熱力学データベースや各元素の拡散係数を用いています。現在、この手法を昇温過程に適用することで、燃料棒の液相化温度の推定を試みています。
Y. Nishida, Y. Tsukada, T. Koyama, M. Kurata, Journal of Nuclear Materials, 466, 551-559 (2015).
▶Mg 合金の長周期積層構造
Mg-Y-Zn 系の 573K における組織形成の2次元計算結果です。hcp 相の二相分離組織形成(図a)や hcp 相中の積層欠陥に Y や Zn が偏析した場合の組織形成(図b)を解析し、この系で観察されている長周期積層構造の形成メカニズムの解明を試みています。
K. Narita, T. Koyama, Y. Tsukada, Materials Transactions, 54, 661-667 (2013).
T. Koyama, Y. Tsukada, K. Narita, Materials Transactions, 56, 937-942 (2015).
▶Ni 基超合金の高温クリープ中の組織変化
Ni 基超合金の 1273K におけるクリープ中の(γ + γ′)組織変化の3次元計算結果です。図の上下方向に 160MPa の引張応力がかかった場合を想定しています。原子拡散によって、立方体状γ′相が異方的に粗大化する様子(上図)や、組織変化の際にひずみ速度が局所的に増大する様子(下図)が再現されています。
Y. Tsukada, Y. Murata, T. Koyama, N. Miura, Y. Kondo, Acta Materialia, 59, 6378-6386 (2011).
Y. Tsukada, T. Koyama, Y. Murata, N. Miura, Y. Kondo, Computational Materials Science, 83, 371-374 (2014).
▶鋼のマルテンサイト変態における組織形成
鋼のγ (fcc) → α′ (bct)マルテンサイト変態における組織形成の3次元計算結果です(計算領域 522×522×522 nm3)。変態に伴う塑性変形(すべり)も同時に解析しています。色のついた領域がα′相であり,正方晶の c 軸方向が異なる領域(バリアント)を色で区別しています。複数バリアントからなる組織が成長しながら変態が進行する様子が再現されています。
Y. Tsukada, Y. Kojima, T. Koyama, Y. Murata, ISIJ International, 55, 2455-2462 (2015).
▶改良セカント法に基づく応力-ひずみ曲線計算
単相の応力-ひずみ曲線が既知である前提のもとに、二相組織の応力-ひずみ曲線を算出した結果です。まず、フェーズフィールド法を用いて形態が異なる組織を用意し、その組織をベースに応力-ひずみ曲線を計算しています。左右の計算結果を比較すると、析出相の形態が応力-ひずみ曲線に影響を及ぼしていることが分かります。
T. Koyama, ISIJ International, 52, 723-728 (2012).
▶時効析出型 Mg 合金における析出物形態
時効析出型 Mg 合金において、六方晶の(0001)αに垂直な板状析出物(左図)が分散強化に有効です。右図は、弾性ひずみエネルギー計算に基づき、(0001)αに垂直な板状析出物が生成するための変態ひずみの条件を明らかにした結果です。析出相の格子定数の設計を通じて析出物形態を制御するための指針になると考えられます。
Y. Tsukada, Y. Beniya, T. Koyama, Journal of Alloys and Compounds, 603, 65-74 (2014).
計算理論・各種資料資料ページ
http://www.numse.nagoya-u.ac.jp/PFM/Phase-Field_Modeling.htm
名古屋大学 小山研究室ホームページ
http://www.numse.nagoya-u.ac.jp/PFM/
今回、PF シミュレーション効率を高めるために、NVIDIA 社製 TESLA K40 を搭載した計算機システム( GPGPU 計算対応)を HPCテックさんから導入させていただきました。また CPU は同じコア数ラインナップの中でも一番高クロックの CPU を選択し、メモリも可能な限り搭載しました。その結果、おかげさまで種々の PF シミュレーションの日常的な高速化が実現しました。当研究グループでは、様々な材料組織形成・特性解析を扱い、かつプログラムソースコードは全て自前ですので、計算対象に依存して GPGPU による高速化効率はまちまちなのですが、少なくとも数倍から数十倍程度のスピードアップが簡単に得られて大変重宝しております。
計算の高速化は、得られるデータの大容量化を可能にしますので、これを受けて最近では、データサイエンスと材料組織学の融合を進めております。いわゆるマテリアルズインフォマティクスやマテリアルズインテグレーションと呼ばれる分野で、特に当研究グループでは、材料組織と特性に焦点を置いた解析を進めています。この分野は昨今、まさに "機械学習" が花盛りですが、研究効率を高めるためにHPCテックさんから、深層学習に定評のある NVIDIA 社製 TESLA K40 搭載計算機を導入させていただきました。DIGITS や Caffe などの 定番の深層学習関連のアプリケーションも最初からインストールされており非常に助かっております。材料開発をターゲットとしたこのあたりの研究は始まったばかりの分野ですが、近未来の材料開発の方向性に新たなステージが見えてきた感じで結構わくわくしております。
最速の GPU を搭載し DIGITS をインストールした計算機はやはり高速・高機能で役立っております。今後さらに、このラインナップの計算機を活用して研究を進めていきたいと思います。最後に、計算機への要望は尽きないのですが、高速化・大容量化・クラウドも含めてのソフトレベルの高機能化の、さらなる充実をお願いします。